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アメリカ大陸の鉄道横断 【フルブライト留学関連-13-】 [フルブライト留学関連]

アメリカ大陸の鉄道横断 【フルブライト留学関連-13-】
53年も昔のことを未だに覚えているのはよほど印象に残ったのだろう。1958年7月に氷川丸で3週間を要しSeattleに着き、そこからOrientation CenterのあるKansas へ行った。当時の列車には高価なPullmanと安価なCoach の2種類あったが、米刻政府から往復ともPullmanでももっとも贅沢な個室寝台の券を貰った。その個室内には洗面台とトイレがあり、朝と夕にボーイが、座席を昼間にはソファに夜にはベッドにと作り替えてくれた。勤務地の八幡出発前に、フルブライトでの留学から前年帰国した先輩より「井上君、アメリカでは驚くことが多いが次第に慣れるだろう。ただ、私の失敗から一つだけ事前に注意しておくと、日本では事務所でも設置されていない空調設備がなんと寝台列車にも付いている。後で思えばそのせいで砂漠を通ってもそれ程暑くはなかったのだが、Seattleで乗るときは涼しいし空調が入っているとは想像も付かなかった。しかしカンサス駅で降りたとき、急にしかも全く予期しなかった暑さで卒倒してしまった。それだけは注意するように。あとはGood luck!」と言われていたのを思い出した。なるほど列車内に入ると真夏の夕方にしては涼しい。それと列車が何の合図もなくスルスルと出発するのには驚いた。一眠りした後で夜中に山中で1時間以上も停車していたので、ボーイに「事故か」訊ねると「2時間の遅れはすぐ取り戻せる。それよりも降りていると警笛もなく動き出すので残して行かれないように」と注意されKansasに着くまでは列車を離れないことにした。翌日は行けども行けども砂漠の中を延々と走っていく。最初のうちは空調が効いて快適で外は暑いのだろうなどと物珍しく眺めていたが、何時間も砂漠しかない景色に見飽きてきた。すると、戦時中の国民学校(小学校)で「太平洋で米国海軍を殲滅し、西海岸に上陸したら次はニューヨークまで進軍だ」などと聞いたのを思い出し「列車でも半日以上もかかる酷暑の砂漠が横たわるこんな広大な国と良くも戦ったものだ」と改めて思い知らされた。その翌日の昼頃だったと思うがKansasの駅に着いた時には先輩の言葉を思い出し覚悟して降りたが、そうでなければひっくり返ったであろうほどに暑かった。
University of Kansasでの一ヶ月のOrientation からは、次の留学先であるCleveland Ohio へ向かったがChicago で乗り換える必要があった。その間のことは延々と続く広大な農地と牧場に驚いた以外はほとんど覚えていない。しかし、いまも強烈な記憶として残っているのはChicago 駅での食事を済ませて食堂から出て来た時のことだ。いま流にはアフリカン-アメリカンと言うべきだろうがBlackの人が私を追いかけてきて「いまどこから出て来たか」と訊くので「ここからだよ」と出て来たところを指すと「そこはWhite の食堂で我々Colored は此方の部屋でしか駄目だ。良くそこで食べられたものだ。以後注意するように。我々はここで食べるのだ。」と連れて行かれた部屋を見ると、なるほど中は全員Black だ。そこで、出発前に米国大使館の人から「皆さんはBlack との区別がある場所でもWhite の方に入ってください」と言われたことをこのことだったのか何となく気まずく思い出した。そういえば、それまでに入国してホテルだったかで何度か記入させられた "Race" 欄になんと書けば良いのかとわからずに訊くと「Caucasian, Mongolian, Blackから選んでくれ」と言われ、そう言われれば「Mongolianだな」と書いたのも思い出された。あの当時は、そういった差別とか差別用語がまだまかり通っていて、数十年後にいまのようになるとは思いもよらないほどだった。Chicago からCleveland の間はLake Erie やアメリカ大陸の農地の広大さに圧倒された以外にはとくに記憶の留まることはなかった。標題では大陸横断と書いたもののSeattle からCleveland までが3,000 km 強、Cleveland からNew York まではさらに800 km近くもあるが、それは半年後以降に鉄道ではなく空路とバスを利用したのでその点はお許しを願う。


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