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レイディズ ファースト 【フルブライト留学関連-14-】 [フルブライト留学関連]

レイディズ ファースト 【フルブライト留学関連-14-】
“Ladies First” という言葉は、男女同権のいまの世の中では余り耳にしなくなった。しかし、戦後しばらくの日本ではそれは横行した。それには学ぶ点もあったが、日本旧来の習慣とは違い、ましてや九州生まれで小学生時代を「男女7歳にして席を同じうせず」と教わってきた私には、その形式的な面では違和感を抱いていた。しかし、1958年にアメリカ留学して、それが当時までの彼らの日常生活で習性として根付いていたことを実感し、それを心情的には理解できたが、同時に戸惑いもした。
それを最初に實体験したのは、ボンド夫妻の家に彼らの車で招かれたときのことだ。 Mr. Bondは家の前で車を駐めるとすぐに降りて車の前を回る。何事かと思ったらミセスのために外から車のドアを開けまた自分の席に戻って車庫入れをした。そのときは少し不思議に思った程度だったが毎回そうであり、他の人の場合も車では男性が女性のドアを開けに降りるのが多いことに気づいた。そこで、日本で行えば気障っぽいが、これも彼の地のetiquetteだろうと、努めてさっと降りて女性のドアを開けるようにした。
一年後の私たちの結婚に際し親身に世話してくれたボンド夫妻から「この前、テレビで日本のEmperorの数歩後方にEmpressが続いて歩いていられるのを見て東洋的だと思ったが、同じようにMotoko もYoshiの少し後を歩いていたね。」といわれたことがある。そういわれれば、話ながら歩くとき以外は私が先行することが多いのに気づき、家内からもそういわれて、以降は意識して並んで歩くようにした。これはかなり納得できた。
それからしばらくして、今度は家内から「Ricky Bondはまだ10歳そこそこの少年なのに、私とスーパーに一緒に行くと、道を曲がるときなどすぐ自然に自分の歩く位置を変え常にRickyが車道側に回ってエスコートしてくれる。それが無意識にできるのは、男の子の幼児からのしつけなのだろう。ここではそれが慣習のようだし、あなたにとっては付け焼き刃だろうが、この国での滞在期間だけでもそのように努力しよう---」といわれた。「大人になって急に変えろといわれても----」と努力はしたものの、20歳代後半ではすでに遅く、これは私が気づかず家内が位置を変えることがしばしばだった。
その他、“Ladies First” では種々と失敗談もあるが、その最たるものは,家内とオフィスビルの途中階から最上階にエレベーターで上ったときのことだ。 当時のゼントルマンの通例で何人かはソフト帽をかぶっていた。乗るときに気づくべきであったが、その中には女性はいなかった。我々二人が乗ると、着帽の男性が、昔の洋画に出てくるように、一斉に頭上のソフトを右手でとり胸の前で留めるのにまず驚いた。最上階では誰も降りようとする気配がない。そこでドアの前にいた私が降りると家内が続き、それに続いて皆が出てくる。雰囲気が何となく変だなと思った途端、家内が私に日本語で「男性は皆、女性である私が降りるのを待っていたのに、あなたが私より先にさっさと降りるので大変恥ずかしかった」とささやいた。それ以降、留意して見ると女性が奥の方にいる場合でも男性が隙間を作り女性を降ろして男性が出るのに気づいた。以降はエレベーターに乗るときには、女性の存在有無に注意を払うようになった。これぞ字句通り“Ladies First” だった。
でも、“Ladies First” の意味するところを実感したのは次のできごとである。修士論文が承認され、40社余りのスポンサー会社に報告すべく、60部ほどの論文を大学構内で印刷し自分の研究室に運ぶことになった。同室の友人に手伝いを頼んだが、すぐには動いてくれない。それではと、私が10冊ほど、家内が数冊を持って何往復かしようと運び始めると、部屋の窓から私たちを見つけた友人3人が大声で ”wait !” と叫びながら走って来る。「何事か」と立ち止まると、彼らは口々に「レディにそんな重いものを運ばせるなんて」と私に文句をいう。こちらにすれば、「すぐ手伝ってくれなかったのでワイフに頼んだのに---。」と思ったが、そこで、彼らにとっての認識は 「”Wife” であるより ”Lady” であることが優先しているのだ」ということに気づいた。先のエレベーターのときもそうだったのだ。このとき、改めて” Ladies First” なる言葉の意味を実感させられた。
この50年余りで日本では男性と比しての女性の地位が高まり、アメリカでも女性の進出で女性を大事にしすぎる ”Lady First” もそれほど過度ではなくなったので、いまの若い日本人がアメリカに行っても、私が感じたほどのことはないのかも知れない。

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