SSブログ

主語のあいまいな日本語 【言葉のはなし-6-】 [言葉のはなし]

主語のあいまいな日本語【ことばの話-6-】

  まず、話題が1968年頃のしかもトイレの事件で始まることへのお許しを乞う。その頃、君津製鉄所の建設に先立ち、S氏を団長に5人で欧米へ約3週間の調査に出かけた。冷戦最中の当時、ヨーロッパへ飛ぶにはソ連領は通過できなくて、アンカレッジ経由であった。北極上空を飛ぶときには航空会社が北極通過の証明書を呉れた時代だ。私とK君とは、まずスウェーデンの製鉄所へ行くべくコペンハーゲンで乗り換えた。早朝に飛行場に着いたので乗り換えまで時間がある。前回の出張時、トイレ入り口におばさんが頑張っていて小銭がなくて困ったことをK君に話して、二人で換金に行きコインも混ぜて貰った。今回は困らないぞとばかりトイレに行くとなんと今回は番人のおばさんがいない。肩すかしを喰った感じで入ったが、お金とコインをK君に預けっぱなしだったのがこの話の始まりだ。

 ここで、話はそれるがこの背景となる話を紹介させていただきたい。その少し前にブームとなった MIS(経営情報システム)の全社計画作成のため、K君も含め気心のわかった7人ほどで、昼間は本社各部や各製鉄所を廻って調査をし、夜は各地の旅館でそれをまとめる、3ヶ月近くの合宿の厳しい仕事をしていた頃のことだ。夜間に及ぶ旅館一室に集まってのまとめ仕事の合間には他愛もないことを話題としてなごむ。トイレに要する時間もその一つだった。各人まちまちだが、どうやら最短は私の2分くらい、最長はK君の20分くらいということになった。すると、K君は「井上さんのは鳥だ。鳥は軽くして飛ぶために少し溜まると一瞬で済ます。私のはサイダーだ」という。理由を聞きと、彼は平然として「皆さん20分もしゃがみ続けたらすぐにわかりますよ。足が段々としびれてきてジンジンする様はまさにサイダーの感じですよ。」(ちなみにその頃の旅館のトイレは和式しかないのが普通だった)との答えに「なーるほど」と合点した次第だ。以来、我々仲間では、少し長めのトイレへ行くことを「サイダーに行く」ということになった。

 さて、本題に戻り、そのK君と一緒にコペンハーゲンのトイレに入った私は「鳥のそれ」ですぐに済んだ。外で待とうとトイレの入り口に行くと、入るときには早朝で居なかったおばさんが使用料としての心付けを取るために待っている。今度こそはと用意したのに、肝心のコインはK君のポケットの中だ。「サイダー」の彼なので20分はかかると思い「おばさんが小銭徴収に待ってるので少し早めに頼む」と声をかかた。「ウン、わかった」との返事。することもなく、トイレの中でポケーと待つことの退屈さ。15分くらい経ったとき、ついに待ちかねて「未だか?」。答えは「出たら出る!」。一瞬「??何が出たら何が出るのか」を考えたあと、独りで大笑いをした。

 最近でのこれに類した話では、東北大震災直後の旧友の集まりで、自然に地震が起こったときが話題となった。A 氏が「女房と家にいた。起きてすぐ-----」という。B氏が「あれは、昼でなかったの?」。A 氏「そうだよ。どうして?」。B 氏他全員「??」。A 氏「??あ、そうか、起きてすぐというのは地震が起きてすぐということだよ。」皆「そうか、そうだよね」で爆笑。

  私が少し喋れる英語やイタリア語に翻訳しようとしてもこれらの例のような主語なしのジョークでは一寸無理だ。英語は日記のとき以外は主語が必要だし、イタリア語とかそれに近いラテン系の言葉では主語は省けるがそれは人称別の動詞変化で主語を明確に推測できるからだ。日本語には、本来、軽重の度合いの異なる敬語とそれに男女で違う動詞・単語や言い回しなどで主語を明示せずともそれをおしはかる奥ゆかしさがあったが、文法は変わらずにその面だけが急激に簡略化されてきたのが今回紹介したようなジョークが生まれる一因であるようにも考えられるのだが。これは最近の言葉の乱れに不満な私のこじつけ過ぎか------


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。