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「骨折り損で学んだこと」【中高生の頃のはなし-5-】 [中高生の頃のはなし]

「骨折り損で儲けたこと」【中高生の頃のはなし-5-】

  昔から「骨折り損の草臥れ儲け」と言う。私は中学2年のときに鎖骨の斜骨折をした。当時は外科手術より私が選んだ整骨院での自然治癒が多く、二か月程の辛い目にあい損をした。でも、その「損な」辛い経験から学んだことが、私の人生に以下に述べるような「もうけ」をもたらしてくれた。

  終戦の翌年春、裏の家の門に「寺島整骨院」と大きな看板が掲げられた。柔道6段で中学の柔道を教えて居られた実直な寺島先生が終戦で武道禁止となり開業されたのだ。それを見て「これで骨折しても困らなくなった」と家では冗談を言った。それから数日後、家の部屋の畳で相撲をとっていて、身体が滑り横転した肩の上に友人がドシンと落ちてきた。その途端に「ボッキン」と自分でも驚くほどの大きな音がした。少し離れた台所にいた母が何事かと走ってきた程に大きな音だったそうだ。私は骨が折れたと感じ、ものすごい痛みを耐えるのに懸命だったが、そのなかで「冗談が本当になってしまった」と思った。

  早速、友人が裏の先生を呼びに行く。先生は私を見るなりシャツを脱がしに掛かるが上半身が少しでも動くと痛い。先生が下着を挟みで切り開き、背中に両膝首を当てエイッとばかり肩を拡げてくれた。「斜めに折れとるケンガ、やおなかですバイ。動けばずれて尖った骨の先が首の肉に突き刺さって痛かケン、動かんゴト辛抱スットバイ」と佐賀弁丸出しで言われる。鎖骨の折れた左側の腕や肩は勿論、首を少し横に向けるだけでも斜めに折れた骨がずれて鋭い先端が首の付け根に、別の先端が体内に刺さって我慢できぬほど痛い。その夜は二回ほど先生をお呼びしてグイッとやって貰った。先生は「人の身体はようできていて、折れて十日くらいから数日の間だけ折れた骨の両側から膠分が出てきてそれで自然に接着する。その接着時期が大変に重要で、そのときに動くと付かなかったり変形したまま付いたりする。それまではひたすら我慢し動かぬように勤めるだけだ」と言われる。それでも無意識に首が横に向くと我慢できないほど痛くなる。先生も二日ほどきて貰ったが、これはたまらんと思われたらしく、薄い板切れを胸の前後に当て包帯で身体にぐるぐる巻きにして下さった。膠分が出てくるという前後の一週間くらいは、上半身を動かさないのは勿論、ものを見るにも目で追うようにして首も回さないよう必死に辛抱した。

  先生は「膠が出る期間に良く辛抱して動かさなかったから旨くつながった。」と喜ばれ三週間目くらいに起床を許されたが、立とうとしても立てない。見ると足の筋肉が落ちてまるで「骨皮筋右衛門」である。その翌日より杖をつき裏の治療室に行ってからがまた大変だった。全く一か月近く動かさなかった左腕が棒のようになって肘が全然曲がらない。それから一週間以上、元柔道の先生が毎回力一杯に腕を曲げてくれ指先が肩に触れるようになるまで大変に痛い、今流に言えばリハビリの日々だった。40日目くらいで中学へ行くことになった。4kmの徒歩通学を特別の許可で汽車通学にして貰った。でも混雑する列車内で押されてまた折れると大変だと、しばらくの間は今度は先生から作っていただいた厚い板の十字架を包帯で背中にくくりつけて、皆からからかわれながら通った。首の付け根の骨先端突出傷は最近まで残っていたし、いまでも骨折部分の近辺に触られるのは嫌で、車の助手席のシートベルトが左鎖骨に当たると不快でいまでも少しずらさざるを得ない。このような肉体的な苦痛の他に40日の学校の欠席による学業遅れで全くの「骨折り損」だった。でも、この骨折により、以降の私の人生に大きな影響を及ぼす「もうけ」もあった。

  その一つは、使うことのなかった足や腕が一か月で萎えて歩けなくなったことから、筋肉と同じく頭も働かさねばすぐ衰え始めるう思ったことだ。歳をとるほどにそれを実感する。二つには折れた骨から膠分が出るのは決まった期間が一回こっきりでそれを逃すと再びチャンスが来ないと言うことから、これは人生のすべてのことに通じると実感したことだ。そして三つ目は先生の「君の背骨はグニャグニャに曲がっとるバイ。何か運動バして背骨バ伸ばさんバ病気ばっかりするゾ」と言われたことだ。これが高校2年で器械体操をしようと思うきっかけになり、そのお陰で80歳まで病気らしいことも経験せずに過ごせたことにつながったことだ。


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桜井洋子

先日お聞きしたことですね。最後の「もうけ」の話はまだでした。
美香さんが文章が上手なのは、父親ゆずりなんですね。面白く拝読しました。どんなことからでもきっと何か得て、プラスになっていく。なかなか凡人にはできません。前向きで意志が強くなければ。
今週は、清里(家族キャンプ)に出かけたので2日会社をお休みしました。なので残業が続き、すっかり返事が遅くなりました。
この後も少しづつ楽しんで読ませていただきます。父にも伝えますね。
by 桜井洋子 (2014-08-31 05:14) 

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