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日米の社会常識の違い(50年前の婚姻届の顛末))【フルブライト留学関連-15-】 [フルブライト留学関連]

日米の社会常識の違い(50年前の婚姻届の顛末)【フルブライト留学関連-15-】

  常識とはその時代と社会とに特有のものである。時代の変化は緩やかなのでその間の常識の変化には気付かないこともあるが、社会共通の常識はでは国が違えば「常識がこんなにも違うのか」と驚くことがある。 以下に述べる婚姻届の顚末(てんまつ)もその好例だ。

留学後約10ヶ月の19596月に、「結婚は二人ともが留学した後で」と約束して3年になる婚約者から、費用支給の留学試験に合格し私のいるクリーブランドで学ぶ旨の手紙が届いた。すぐ後で、両親からは「そちらでは面倒だろうと婚約者の母親と一緒に婚姻届は済ませた」と知らせてきた。両親の早手回しに驚きはしたが異存はなく了承と返事した。挙式前の教会における3回の結婚予告は、二人が在籍する東京と八幡の教会に依頼状を出し、出席できない双方の親代わりをボンド夫妻に頼みに行った。 そこでの夫妻の驚きようは私が仰天したほどだった。”What!  “You said you were married?  When? “ 「先週のいつかはわからない」、「Yoshi、日本では本人のサインなしで婚姻手続きが可能なのか?」と訊く。「親が必要書類を揃え、代理人として両家の印鑑で手続きをしたのだ」と返事をした。”That’s impossible here in US!!” 「この国での婚姻届には、当事者が役所に行きき二人揃っての同時サインが必要でこれは常識だ。例外は、前大戦中に欧州で重傷を負った米兵が、婚約者も同意のうえ欧州では軍の上司が、米国では牧師が臨席し、同時サインを電話で確認しあって届け、一面の新聞記事になった事例ぐらいだ。本人不在の手続きなど信じられない」という。それも一理はあると思いながらも「日本ではそんな常識はない。受理されたのだから可能だ」と返事したが、「日本ほどの文化国家でそうとは信じられない」とのこと。「でも、日本の離婚率は米国より格段に低い。日本の社会では相互信頼が高いから可能なのだと思う」と米国の常識が正しいとのニュアンスに若干抗議の意も込めて返答した。人生で一度しか(複数回の人もあるが)体験しない婚姻届を巡って、たまたま彼我の社会常識の大きな相違が露見したわけだ。それが米国の常識だったことは、それから40年経った10年ほど前のNHKテレビ放映でも確認できた。近年は日本の離婚率も当時の米国と同じように格段と高くなり、また知らぬ間に婚姻や養子縁組の届けが受理されていたという新聞記事に、日本の都会でも次第に当時の米国社会「他人の生活には関与しない」流に近づき、常識も米国流に変わってくる日が早晩来るのかも知れない。

そこで、同じ教派信者のボンド夫妻に、挙式まで婚約者を預かって貰うことを依頼したら、挙式は教区の大聖堂チャペルで行いそこの牧師さんに司式を委託した旨が知らされた。

9月には婚約者が到着し、司式予定の牧師に英文の告示結果と日本では入籍済みであることを告げて10月の初めの挙式を依頼した。すると「告示証明は有効だが、ここでの挙式には日本の婚姻届とは無関係に ”marriage license” が必要で、もしそれなしで挙式をすれば私は刑務所行きになる。まず、Cuyahoga County 役所に行くこと」と冗談交じりの答えが返ってきた。二人で事務所に行くと書類が渡され、「これに記入し病院での健康診断書も副えて来週の今日にまた来るように」という。「一週間待つのか?」と訊くと「離婚が増えているのでオハイオ州では一週間のcooling off period が必要となった。 即刻の結婚希望ならそれが可能な西部の州を紹介しようか」という。 結核と性病の検査済み証明書を持って、翌週二人で County 事務所に出かけた。すると、一週間待たされた理由となった質問の、”Are you still hot ?” と訊く。”Sure, we have been hot for the last three years!” というと“Oh, such a long period!”と大げさなジェスチュアで「ここにサインを」とのこと。米国の常識通り揃ってサインしたら “Congratulations!“ といってmarriage license をくれた。

次の土曜日に,市の中心部の大聖堂チャペルで挙式した。留学生援助団体関連のユダヤ系の人が約30人(異教徒のユダヤ人が多人数で入堂したのは初めてとのこと)、二人の留学先の先生・友人、教会関連など計50名ほどの出席があった。パイプオルガンの生演奏での入退場で、スナップ写真は当時の日本では珍しいカラーだった。式の直前に牧師さんからの「指輪交換のとき普通は皆の前でキッスするが日本の風習でどうぞ」とのことで「九州男児が人前でキッスなんぞできるか」とばかり ”No” と答えた。しかし、式後に二人並んで教会を出る際、両側に並んだ人たちが花婿そっちのけで花嫁のほっぺにチュウチュウとキスをするのを見て「郷に入らば郷に従え」のことわざが頭をよぎった。


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